日本の歌 3
日本人は海洋民族だといわれます。
しかし、実際に文学の上にあらわれた日本人の海洋性はきわめて貧弱なもので、山崎正和氏の言うようにせいぜい海岸性とでも言うべき程度にすぎません。
まだ上古の時代は海に対する意識はかなり積極性を持ち、感じ方も健康ですが、中古あたりになると海は恐ろしいもの、妖怪や、暴風雨や、海賊の恐怖に満ちた場所としてゆがんだ形でしかとらえられなくなってしまいます。
しかし、日本人が本来そういう民族性しか持ちあわせていなかったわけではありません。
また中古以後の時代においても、広く海に接した生活圏の中で生きてきた人々は、海への積極性を失なっていはしません。
ただ、海のない大和、山城へ都を陸封してしまった宮廷と、宮廷を中心とする貴族文化が極端に海への健康な感覚を衰えさせたのにすぎないのです。
古代の海の歌、海の文学をはぐくんだものは海人部の民です。
海人部は単に海岸の生活者をさすだけではなくて、南西諸島から中国南部の海岸、そして日本の海岸部を広くおおって分布した海の民族です。
その習俗、習慣を持っている文化の点でも平野部や内陸部の人々とは歴然と違った性質を持っていたはずです。
特に分布の濃密なのは九州の北海岸、瀬戸内海、伊勢湾、伊豆、霞ヶ浦などでした。